2017.08.29 朝刊 29頁 社会1 (全838字)
裁判員裁判 高知
2017年8月5日高知新聞朝刊
警官衝突死 重過失罪に
地検変更 「傷害致死なら無罪」裁判員裁判 高知
2015年8月、高知市内を自転車で走行中に警察官に衝突して死 亡させたとして、高知地検が傷害致死と公務執行妨害の罪で起訴し 、高知地裁の裁判員裁判で審理を受けていた少年(19) について、地検は28日、重過失致死罪への訴因変更を請求した。 地裁は判決言い渡しを予定していた今月4日、地検に訴因変更を打 診していた。
取材に対し、地検の島根豪次席検事は「 地裁から傷害致死は認められないという示唆があった。 このまま無罪判決を受けて控訴するか、 訴因を変更して重過失致死罪の確実な処罰を求めるかの選択だった 。人が亡くなったのに全く処罰されなくていいのか、 ということを考慮した」と説明した。
訴因変更の請求書によると、 15年8月14日午後9時10分ごろ、 当時高校3年生だった少年は、 無灯火の自転車で同市長浜の歩道を走行中にパトカーから追跡され 、時速約43キロで逃走。前方に数人の集団がいるのを認めたが、 減速するなどの注意義務を怠り、高知南署地域課勤務の男性巡査部 長=当時(25)=に衝突して約2カ月後に死亡させた- としている。
これまでの公判で弁護側は、 少年は逃走中に前方に集団がいたことに気付いたが、 警察官がいるとの認識はなかったなどと主張。 過失によって警察官を死亡させたことは認める一方、 故意による罪は成立しないとして無罪を求めていた。
一方の検察側は、少年が取り調べ段階で「 前方に警察官がいたと認識していた」 と供述していたことなどから、故意性があったと強調。 少年を追跡したパトカーのドライブレコーダーの映像や、 事件現場にいた別の警察官の証言なども示し、 懲役4年以上6年以下の不定期刑を求刑していた。
しかし、 地裁はこれらの証拠では故意性の立証が不十分だと判断したとみら れ、4日、地検に訴因変更を打診していた。
重過失致死罪は、 重大事件を審理する裁判員裁判の対象犯罪ではないため、地裁が訴 因変更を認めた場合は、裁判員は解任され、 通常の公判手続きに移行する見通し。 次回公判は9月11日の予定。
高知新聞社
2017年8月5日高知新聞朝刊
警官衝突死 少年の判決延期
地裁 異例の訴因変更打診
裁判員裁判 高知
2015年8月、高知市内を自転車で走行中に、警察官と衝突して死亡させたとして、傷害致死と公務執行妨害の罪に問われている少年(19)の裁判員裁判が4日、高知地裁であった。判決の言い渡しが予定されていたが、地裁が検察側に訴因変更を打診する異例の手続きを取り、判決は延期された。地裁は少年の衝突に故意があったとする検察側の立証が不十分だと判断したとみられ、過失致死罪に訴因が変更される可能性がある。
起訴状によると、15年8月14日午後9時10分ごろ、当時高校3年生だった少年は無灯火の自転車で同市長浜の歩道を走行中に、パトカーから追跡されて逃走し、道路前方で別の少年グループに職務質問をしていた高知南署地域課の男性巡査部長に衝突し死亡させた-としている。
これまでの公判で弁護側は、少年は逃走中に前方に数人の集団がいたことに気づいたが、警察官がいるとは認識していなかったと強調。衝突の故意性を否定して傷害致死などの無罪を主張していた。一方で「過失致死や重過失致死の罪に問われるのはやむを得ない」として、過失によって警察官を死亡させたことは認めていた。
検察側は、少年が取り調べ段階で前方に警察官がいたことを認識していたと供述していたことなどから「警察官の体に衝突する危険性があると認識しながら、取り締まりを逃れるため、集団を突破しようと考えた」として故意性があったとし、傷害致死などの罪を主張していた。
この日の公判で、山田裕文裁判長は「これまでの審理の状況を踏まえて、本日午前、(検察側に)訴因変更を打診した」と述べ、判決予定当日に異例の手続きを取ったことを明らかにした。
検察側はこれをただちには拒否せず「検討に時間がかかる」として判決期日の延期を要請した。弁護側は、過失罪への訴因変更を念頭に、改めて少年の情状面を訴える考えを示した。
検察側は次回期日の9月11日までに訴因変更の是非を判断する。変更されなければ同日に判決が言い渡され、変更された場合は、改めてその後の進行を協議する見通し。
公判は8月1日、検察側が懲役4年以上6年以下の不定期刑を求刑して結審していた。
故意の立証揺らぐ
高知地裁の山田裕文裁判長が高知地検に対して行った訴因変更の打診。極めて異例とも言える措置は、傷害致死での有罪が問えず、このまま処理すれば、無罪判決が下された可能性を示唆している。検察、警察の出した証拠の不十分さが結果的に示された格好だ。
公判で一貫して争われてきたのは警察官に衝突した少年に故意があったかどうかだ。
つまり少年がパトカーからの追跡を受けながら、進路前方に警察官を含む集団を認めていたか。「警察官と自分の身体が接触してもかまわない」とまで考え集団を突破しようとする意志(未必の故意)があったかどうかという点だ。
これまでの公判で少年は、たばこを所持していたためパトカーをみて逃走しようとしたことは認めたが、「止まりなさい」との拡声器の声はイヤホンで大音量の音楽を聴いていて聞こえず、夜道が暗く、前方には警察官は見えなかった、などと主張した。
その上で「前に複数の人影を見たが、右側にはスペースがあり、そこを通れると思った」とし、「衝突するごく直前に、1人の警察官を認識した。警察官が突然前を横切ったため、ぶつかった」と強調した。
これに対し検察側は、「パトカーの警告の声は聞こえていた」「当初の捜査段階で少年は、約35㍍手前で、警察官を認識したと供述している」と指摘。また、広くなった警察官の同僚が自転車から11㍍手前の地点で両手を広げて制止し、上半身に反射帯も着けていたことから、「少年は警察官に気づいていたはずだ」と主張した。
パトカーのドライブレコーダーの映像の解析から、自転車の走行速度は時速約43キロに上った。しかし、衝突する瞬間は映っておらず、警察官の動きや位置関係を明確には示せなかった。
このほか、パトカーの発した警告の声が聞こえたか否かの立証実験を現場とは異なる場所、違う状況で実施しているなど、証拠の不備を弁護側に指摘される場面もあった。
傷害致死の場合は、重過失致死の場合と異なり、犯罪が成立するため故意性が必要となる。
高知地裁は、検察側の立証が不十分で、少年に故意があったとの内心を証明できる客観的証拠が提示されていないと判断したとみられる。
事件は異例の経過をたどった。過失傷害の疑いで現行犯逮捕された少年はその後、高知地検によって傷害致死と公務執行妨害の容疑で高知家裁に送致された。さらに家裁が少年の故意性を認め、逆送と呼ばれる手続きを経て、高知地裁で初めての少年を対象とする裁判員裁判が実施された。(坂巻陽平)
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