〈資料庫〉警察活動についての記事
なぜ警察学校でのパワハラが《警察活動》と関係あるのか、そう疑問に思われた方もとりあえず読み進んでいただきたい。
■闘うジャーナリスト・佐々木奎一がゆく! ワーキングクラスの被抑圧者たち 第28回
恐怖の警察学校、執拗な暴力&退職強要の実態発覚!4分の1が退職、ついに訴訟へ
文=佐々木奎一/ジャーナリストランドセル素材などのメーカー、クラレの調査によると、今春、小学校に入学する子どもたちの「将来就きたい職業」で、男子2位、女子10位に「警察官」がランクインしている。
子どもたちが夢を保持し、念願叶って警察官になった時、「こんな目に遭うとは思わなかった」と、後悔する人が出ないよう、「警察学校」の実態について紹介したい。
警察学校とは、各都道府県警の採用試験に合格した者が入る全寮制の訓練機関だ。半年間(高卒の場合は10カ月間)で、捜査に必要な法律知識や技能、逮捕術などを学ぶ。生徒も警察官であり、在籍中は試用期間に当たる。
警察学校で執拗なパワハラ
筆者は昨年秋、この警察学校でパワハラに遭ったと訴える人物を取材した。
被害を訴えるのは、兵庫県在住のA氏(男性、20代半ば)。中学生の頃から警察官になるのが夢だったA氏は大学卒業後、兵庫県警の採用試験に合格。2013年4月から警察学校での生活をスタートさせた。生徒は約400人。10クラスに分かれ、A氏はB教官(男性、推定40代)が担当するC学級に配属された。だが、入校2日目、異変が起きた。
この日、C学級の生徒は学校の正面通りに整列させられ、B教官は点呼を取った。この時、B教官はA氏に対して突如「お前は24歳なんやから、まだ若い。わかっているな」と、退職を促してきたのだ。A氏以外にも4人ほど同様に退職を促された生徒がいたという。
当時、A氏は毎日、「日誌」をつけていた。これは警察学校の課題の一つで、教官がそれに対して赤ペンでコメントを書き込むことになっている。入校2日目の4月2日の日誌にA氏は、「気合を入れていきたい。必ず卒業します」と書いたところ、B教官は「そのわりには、まったく危機感がない」と記載し、それ以降、執拗な退職強要が続いた。
A氏は体調を崩し、4月5日の日誌には、「今日は健康状態が悪く、体がすごくしんどかった」、6日には「最近、ほとんど睡眠が取れていなかったので、頭がボーッとしてしまったり、集中力が切れそうになってしまったりしました(略)私にはチャンスは残されてない」、7日には「これまで睡眠時間がほとんど取れず疲れがたまっている」と正直に吐露している。B教官は「泣き言が多い。これが人に見せる文か?」と切り捨てる返事を書いた。
またB教官はA氏に対し、「お前の実家、金持ちやろ」と何度も聞いた。そして、しつこく親の収入や親が所有する自家用車について質問してきた。B教官は、A氏が金持ちの息子だから気に食わなかった、と疑いたくなる言動を重ねた。
さらに、授業中、A氏は頻繁に外に立つよう命じられた。そのため、授業にはまったくついていけなくなった。授業をまともに受けさせてもらえなかったA氏は、4月19日の試験で不合格となった。このとき、B教官は「お前は絶対に卒業させん。おっても無駄や。辞職届を書け」と、2時間にわたり退職を迫った。
「教官室に入るときの声が小さい」などという理由で反省文を毎日書かされ、指定の枚数を書いて提出しても、何回も書き直しを命じられた。
精神的に追い詰められる
この頃の日誌を見ると、精神的に弱ってきている様子が表れている。
・4月17日「最近、元気がなくなってきている。怒られてばかりで弱気になり(略)ずっと『自分は辞めさせられるのでは?』と考えてしまって動きが固くなってしまっている」
・21日「昨日の夜から下痢、吐き気に襲われ、だるさから午前中横になっていた」
・24日「最近『絶対俺は辞めさせられる』とばかり考えて周りが見えない時がいっぱいあった。誓約書も書かされて精神的に弱ってしまった。しかしここで気合を入れて自分の根性を見せたい」
これに対し、B教官は「エゴのかたまりや」と返事を書き、一日も早く辞めるよう促してきた。ほかにも、B教官は学校でA氏と顔を合わすたびに「早いこと辞めて別の道を探せ。お前おったら迷惑や。辞めろ」と圧力を強めた。
6月2日には、体調不良を訴えるA氏に対し、B教官は「辞めろ。お前は汚い奴や。最低や」と罵倒した。A氏は病院へ向かったが、その道中、車に同乗したD教官は「なんで辞めへんの。お前のせいで皆迷惑しとるんや」「辞めろ。お前はストーカーと同じや」とB教官同様に退職を強要した。
病院から戻ると、B教官は、「大げさにしやがって。ただの風邪やろ。お前のせいで業務がストップするんや。早く辞めろ」と怒鳴りつけた。A氏は、「お願いします」と辞めない意思を示した。その後、「辞めろ」「お願いします」の押し問答が続き、B教官は「次に言ったら腕立て3000回させるぞ」と言った。それでも辞めない意思を主張し続けたA氏に、B教官は腕立て1万2000回を命じた。A氏は腕立てをし、270回を過ぎたところで、めまいがして頭を打った。B教官は、「お前はいつも口だけや。辞めろ」と言い放った。
6月4日には教官3人に囲まれ、「辞めろ」と言われ続けた。そして、6月7日、A氏は血液検査で異常が見つかり、緊急入院した。そこへB教官が現れ、第一声で「お前、向いていないから辞めえ」と精神的に追い詰める発言をして帰った。
A氏が退院してからもB教官はクラス全員の前で、「お前は給料泥棒や。お前に税金が60万円も支払われとんや。お前は警察官になられへんのに、なんでここにおるんや。お前は端っこに座っとれ」と罵倒した。
暴力も振るわれた。E指導員という、A氏より年下の半年早く警察学校に入っている高卒の人物がいる。各クラスに、約半年早く入校した高卒の生徒が「指導員」と称して配置され、大卒の半年後輩をしごくシステムになっていた。そのE指導員は、朝食時にいきなりA氏の喉元をつかんで壁に押しつけたり、泥酔して部屋に入ってきて、いきなり平手打ちをしたりしたという。
こうして8月に入る頃には、C学級では5人が辞め、他のクラスもそれぞれ5~10人くらい辞めていったが、A氏は辞めずに残った。
すると、8月6日、A氏は免職を言い渡された。
兵庫県を相手取り提訴
その後、A氏は免職取り消しと700万円の損害賠償を求め、兵庫県を相手取って提訴し、現在、係争中である。警察側は、A氏の言い分を否定しているが、日誌という動かぬ証拠が実情を物語っている。
なお、A氏は身長180cm近くあり、空手経験者でもある。
そこでA氏への取材後、筆者はA氏が入校した13年度の、全国の警察学校の状況を調べた。すると、兵庫県警では入学者490人のうち、123人も辞めていた。退職率は実に25.1%で全国ワースト1位だった。
兵庫県警の退職者の内訳を見ると、自己都合退職が122人で1人が免職。同年、全国の入校者は総勢1万1079人で、このうち1271人が退職。退職理由は自己都合退職が1267人、2人死亡、懲戒免職1人、免職は1人だけだった。要するに、A氏は唯一、退職強要の嵐の中で最後まで自分から辞めなかったのである。A氏は、「今でも警察学校で受けた仕打ちの夢を見る」と語っていたが、並大抵の人なら、何年も再起不能になっていたであろう。それほどA氏は強い精神力を持っている。そういう人間を辞めさせる警察学校の罪は重い。
なお、全国の各警察学校の退職率を比較した結果、最も低かったのは、大分で1.1%。次いで宮崎2.2%、富山2.4%、皇宮2.6%、山梨2.9%、新潟3.1%、沖縄3.2%、山口3.4%、愛媛3.9%、島根4.4%、群馬5.0%、山形5.0%。
退職率の低い上記12校のうち、過去5年間にわたって5%以下を堅持しているのは、山形(09年以降、順に0.0、4.3、4.1、1.0、5.0)のみだった。山形の警察学校は、「ホワイト警察学校」と認定してもよさそうである。
5%を超えているのは、岩手5.8、岐阜6.1、北海道6.2、京都6.9、青森7.2、和歌山7.2、佐賀7.3、長崎7.7、徳島7.7、警視庁8.1、宮城8.1、奈良8.8、愛知8.9、香川9.0、静岡9.0、福島9.5、茨城9.8、秋田9.9、岡山10.3、長野10.4、高知10.6、熊本10.8、福岡10.9、広島12.0、滋賀12.5、三重12.7、栃木12.8、福井12.9、鳥取14.3、千葉14.4、埼玉17.1、大阪18.6、石川18.7、鹿児島19.1、神奈川19.2、兵庫25.1%だった。
8.9%の愛知は、過去5年分で見ると09年が22.3%、12年が23.0%でワースト1位、10年は19.2でワースト2位という全国屈指の劣悪校だった過去がある。今後も、この数字が低下していくことを期待する。
岡山は5年連続10%超で、10年は20.2%で全国ワースト1位、11年は18.0%でワースト2位の座にあった。高知は12年に29.3%という極めて高い数字で全国ワースト1位であった。
埼玉は5年連続15%超えで、12年は20.0%の大台に乗った。神奈川は10年以降4年連続15%超えで、12年は22.0%と全国ワースト3位。
兵庫は、10年(11.4%)を除く4年間が軒並み15%超えで、11年も21.4%でワースト1位。12年も20.1%と大台で、まさに「ブラック中のブラック」と呼ぶにふさわしい数字を叩き出している。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)
■「教官が退職強要」元巡査の男性、兵庫県を提訴 2014/7/19 19:26
※写真説明 元巡査の男性の日誌。教官からは赤い文字で「意味不明」など書き込まれていた
兵庫県警の元巡査の男性(25)が、県警察学校(芦屋市)で教官から執拗に退職を迫られ精神的苦痛を受けたとして、県を相手取り、700万円の損害賠償などを求めて神戸地裁に提訴していたことが19日、分かった。
訴状によると、男性は2013年4月、採用され入校したが、直後から教官に「お前は絶対卒業させん」などと退職を迫られたと主張。授業への参加を禁じられ、教官に囲まれ辞職願を書くよう迫られたといい、同9月に成績不良などを理由に免職処分になった。
警察学校で男性が使っていた日誌のやりとりによると、教官は「何もしなくていい、いまさら遅い、頑張り不要」「もう何も考えるな。お前なりに次を見ろ」などと度々、赤字で記入していた。
代理人の弁護士によると、日誌は免職後、県が保管していたが、男性からの求めに応じて返還され、裁判に提出予定という。
一方、県は準備書面で「教官は辞職を勧めたが、強要した事実はない」などと主張。男性が週末の外泊を禁止された際に無断外泊した事例を挙げ「職務命令に故意に反して謹慎処分を受けるなど、警察官としての適格性が欠けていた」とし、請求棄却を求めている。
県警は「警察官は高い倫理観と職務執行能力が求められ、警察学校で厳しい訓練をしている」とし、「今後も凶悪犯に毅然と対抗できる警察官を育成していく」としている。
神戸新聞
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